自分の顛末

21歳43話

 あの時観てしまった動画の衝撃が今だ身体を不安にさせ、でも何故か自分の中の何かを活発にさせた。生きなきゃという衝動と生の脆さをハッキリと見せつけられたこと。表裏一体、生の顔から死の顔に回転扉のように変わる様を。次の日からこの感覚を誰かに伝えたい気持ちで一日中頭が一杯になり、居ても立っても居られなくなった僕は彼女の家へ要件も取らず半ば押し入る形で入って行った。バイトから帰って来た彼女は少し疲れの表情をみせ、どこか退屈そうだった(留学の話をしていた時期で恋人同士の関係がすぐそこに終わることがお互いに分かっていた時だ) 家に入るなりあからさまによそよそしくする彼女のお構いはそれだけ彼女がこの恋愛に真剣に向き合っていたからで彼女自身僕との距離や付き合い方を真面目に考えた先の裏返しだったのだ。ともあれ僕は彼女に話したい、この前感じたあの形容しがたいどうしようもない絶望を。僕は彼女が寝転がっている折り畳み式のベットに猫のように上がり彼女にこの前観た動画の事、そこで感じた事を矢継ぎ早に話し始めた。彼女からの反応なんて正直どうでもよくて僕は「あの感覚」を言葉にしたかった。説明できない恐怖、自分の中でいつまで経っても消化できない物は上手く言葉で排出するしかない。色んな例えや身振り手振りで彼女に伝えようとしても頭の中にある蜷局を巻いた怪物は一向に姿を消さなかった。話の最中彼女は一言も発さずこんな近い距離なのに僕は壁打ちを一人でしているような気分になったが、自分自身が納得できることが目的なのだからそれでいいんだ。僕は家に帰ると弟を見つけすぐにあの動画の事を話し出し弟が眉をひそめ困惑した表情で話を聞いている。弟には僕がどう映ったのだろう、家の中で会えばとっておきの話でもあるように毎度あの話ばかりしている兄。

過去の話
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