19歳9話

 世間が師走の慌ただしさを落ち着かせた夜の大晦日、僕は自転車に乗って隣町の人っ子一人いない商店街を爆走していた。商店街を南に抜け大通りを5分程走らせると左手に大きな自転車屋がある交差点に着いた、女の子の話によればその交差点から東に10メートル程歩けばマンションがあるよと聞いていた。「あった」女の子に電話越しに伝えると僕はマンションの一階にある駐輪場に無断で自転車を停め薄暗く無機質な駐車場を歩きマンションのエレベーターホール前までドキドキしながら歩いた。「遅くなってごめん」インターフォン越しにそう伝えると同時に一階の扉のロックが解除され僕は扉を押しのけるように開けた。大晦日に一人暮らしの女の子の家に招待されるなんて、期待と欲望の願望を胸に秘め家に上がらせてもらった、覚えていることはコタツに二人で入りながらなにか喋ったこと、タバコを吸っても嫌がらなかったこと、大晦日に放送される格闘技の長時間番組を二人で観たこと、女の子のお気に入りの選手は宇野薫選手だったこと、気が付けば僕が女の子に覆いかぶさっていた事、、、そして明け方までオーラルセックスをしていたこと。女の子が新しい彼女になってくれたこと、そんな大晦日だった。


 女の子と知り合ったのは学校の授業でのレクリエーション、僕が何かのモノマネをしてそれに大爆笑したところからだったと思う。その後クラスメイトを介して食事会だったりカラオケを行ったりしながらその女の子と仲良くなっていった。距離はぐっと近くなり今こうして家に招待してくれるまでになった。「大晦日何してるの?」女の子にそう聞くと「特に何もしない家でゴロゴロだと思う、家来る?」と一回の質問でタイもサンマもマグロも釣れたような返事が返ってきてこれは自分の運なのか実力なのか女の子が何も考えず言ったのか、とにかくこれは途轍もない幸福でありハプニングであり心の底から握り拳が天高くつき上がったのだった。
そこから定期的に彼女とデートを重ねて以前より遥かに深い仲になっている、互いが互いを気にかけ、互いが求め合うような、二人で爆笑したり、二人で泣いたり、いろんな感情を共有できた彼女だった、この素晴らしい日々は後にも先にもこれが最後だとは思っていなかったが。あるショッピングデート中僕はバイトを始めようかと考えていた。デートにはお金がいる僕はデート代をたくさんの入学祝い金から出していた、それもいつか尽きる。バイトでもするかぁと考えていた、何より周りのクラスメイトの恋にバイトに勉強にとそんなキラキラした生活を普段から見ていて羨ましいなぁと思っていたりもした。
 数日後早速バイトの面接を受けた、場所は専門学校からほど近いミニビレッジ・バンガードみたいな雑貨屋だ、その場で採用が決まりなんとその日から働く事になった、18時前に面接、18時過ぎにはお店のバックヤードで仕事の作業をしていた。時給は800円、その日は23時まで働き給料はニコニコ現金払い、4000円を財布に入れ彼女の家まで自転車で帰宅した。

 『時間を売って対価をもらう…悪くないな…』

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