19歳8話

 タバコの自販機の前では周りをきょろきょろする動作が未だに止められなかった、そうお巡りさんの目があるからだ、20歳までまだ1年ある。タバコを買ってすぐ近くのミスタードーナツに彼女と入った、頼んだメニューはホットコーヒーと何か、コーヒーは何杯でもおかわりができるサービスだったと思う。彼女からの矢継ぎ早なおしゃべりがタバコの煙とともに店内に消え僕はというとコーヒーのおかわりを持ってくる店員にずっと目がいっていた、おかわりも何杯目だろう、、、そうだ!!あの子だ、確か幼稚園の時同じ組だった女の子だ、店に入ってからその女の子の店員が気になっていた、僕は自分の記憶力の良さに感心し当たり前の話だが僕にも幼稚園時代があったのだなぁ~と少し懐かしんでいた。自分の成長は案外分からないが他人の成長には凄く敏感になる、幼稚園児の時と変わらない少し面長でぷっくらとした頬、可愛いどんぐり目をした女の子。家に帰るなり幼稚園の卒園アルバムを見返すとまさにその女の子だった(お店で店長らしき人に呼ばれていた苗字とも符合した)

 今の僕は過去も未来も現在さえ意識すらもしない、前にも言ったが毎日金で買える娯楽を消費するばかり、朝タバコを買って学校に、授業中はたまに寝たりもしてしまっている。帰りは中古CDショップでメタル音楽を漁って、、、その時は言葉で説明するのは難しかったが(今でも難しいが)専門学校という電車に乗りさえすれば人生の目的地に勝手に着くものだと思っていた。その考えは精神的には楽だが一方では自分には明確な意志がない事を突き付けられているような気がして何ともむずがゆい気持ちだ。クラスメイトの中には将来に対して具体的な目標がありそのために日々準備している人もいる、こういう人を目の前にするとむずがゆさよりも漠然と人生に対する焦りが少しは出てくる、こういった気分になると僕はいつもモラトリアムという心の中の家に入り「疲れた~」といって一休みするのであった。問題を先送りする楽さ、安心感、それが出来てしまう歳、何もかもがモラトリアムで解決できてしまうこの魔法のような家をこの先5年程楽しむとは自分自身考えてもいなかった。

 『電車に乗るだけで仕事も家族も家も手に入ると思っている僕』

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