20歳33話

軍手しか知らない男

 バイトを始めて初めての本格的な冬に突入した。この時期バイク通勤がとにかく辛い。車と違って体は晒されているのでとにかく寒い。バイクを走らせて一分もしないうちにハンドルを握る手がかじかんできて冷たいよりむしろ火傷した時のように手が痛い。僕は寒さ対策のため家にあった軍手を嵌めて通勤していた。冬用手袋を買えばいいじゃないかと思うだろうが、買う面倒くささの方が勝り結局買わなかったし、機能性も軍手とあまり変わらないだろうと判断していた(実際機能性は雲泥の差だが)結局その冬は軍手で凌いだが凌げた理由というか対策があって、僕はいつも信号が赤に変わりバイクを停止させた瞬間軍手を急いで脱いでその手を胸の前で腕組みするようにブルゾンの下から直接自分の脇に突っ込んだ。これがカチコチに凍った手を解凍させるのに効果てきめんだった。脇に手を突っ込むのは信号が変わる30秒程だがその間に手は温まり次の信号待ちまで持ってくれる。 バイトの行き帰りそれを繰り返し冬の期間なんとか凌いだ。思えば冬用の手袋もそうだが、バイトしていた頃は物という物をあまり買わずたまにバイト終わりのTSUTAYAでCDを買うくらい。あとはタバコと一日一本の500㎖のミルクコーヒー。一つしかなかったカバンも底に穴が開き開いた穴をホッチキスでバリバチに留めて凌いでいた(銀行でお店の硬貨を開いた穴から落としそうになってカバンの買い替えを検討したがホッチキスでさらに留めて強化した) ズボンもそうだ、高校時代に買ったお気に入りのレッドブラウン色のチノパンを履き続けバイト中しゃがんだ時にとうとう股の部分が破れてしまった。帰りに彼女の家でそれを指摘され後日彼女にその部分を縫ってくれたことでチノパンは復活した。彼女に感謝しその後も履き続けることが出来た。僕には人生で浪費期間と節約期間が交互に起こり何をきっかけにそうなるのか分からないがバイオリズムがある。いつも被る帽子、買い替えない眼鏡、首元が情けなくダルダルになるまで着るトップス、申し訳なさそうにある浅い水溜まりですら破れた所から水が侵入するぼろぼろのスニーカー。物持ちがいい、倹約家というより買い替えるのが面倒くさいのか身に着ける物に対して保守的な側面があるのか…まぁそういうところがあると思う。その数年後衝動買いの日々が始まるが…

 深夜3時の極寒の世界から家に到着し玄関を開け中に一歩入ると、焼いたお肉の香ばしい匂いがいつも若干鼻についた。あとの祭り。僕のバイトはいつも週末。家族の週末はいつもホットプレートで焼肉パーティー。舞い上がった肉の脂が床に落ち、履いたスリッパがその上を滑らせる、そのままリビングに行くと、食卓の上に若干焦げ縮こまった肉と大量の焼きそばが残され、空腹の僕はそれを貪るように食い散らかした。

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過去の話
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