
20歳30話
いつもバイト終わりにバイト仲間と一服してその後することは自分の原付バイクのガソリン残量を確かめる事だった。乗っていたバイクはリトルカブでシートの下にガソリンタンクがありガソリンメーターはタンクに付いていてシートを開けて残量を確認していた。ガソリンが切れそうになるとバイトしていた店の前にガソリンスタンドがありいつもそこで給油していた。ある日バイト終わりにガソリン残量を確認すると給油するほど減ってはいないし、かと言って明日家とバイト先を往復すると給油ラインに達してしまう…僕の出した解決策はいつも給油しているガソリンスタンドではなく帰り道にあるガソリンスタンドまで少しでガソリンを減らしてから給油することにした。車を乗っている人でもこまめに入れる人と残量ギリギリまで減らしてから入れる人がいるが、僕は後者である。敢えてギリギリまで減らしてカラカラに乾いた喉を潤わすかのようにガソリン満タンに入れるのが気持ちいい。原付バイクも同じで出来るだけ減らしてから給油したかったのだ。いつも裏道ばかり使って最短距離で家まで帰るのだが今回給油しに行くガソリンスタンドは少し遠く広めな一般道を使って行く事にした。少し回り道になるがガソリンを使いたかった僕からしたら丁度よかった。目的のガソリンスタンドに着くとおおよそ計算通りガソリンが減っていて申し分なし。ガソリン満タンで気持ちよく走り出してから100メートル過ぎた辺りで後ろから「そこのバイク左にゆっくり停まってくださ~い」とスピーカーで指示を出す声が後ろ手に聞こえてバックミラーに映る赤色灯と深夜3時、周りに車やバイクが一台もいないことを確認したと同時にやらかしたと思った。道路脇にバイクを停めて後ろから赤色灯をつけてゆっくり近づいてくる車を待った、バイクの真後ろにピッタリつけたパトカーから一人お巡りさんが降りてきて早速車内へ案内された。パトカーに案内される途中お巡りさんの背中越しにさっき給油してくれたモヒカン刈りの店員さんが訝しそうにこちらを見ていた。やらかしたのはスピード違反、車内で交通事故の啓発やら何やらを聞かされ、切符を切られるときに個人情報、朱肉で指紋摂取、びっくりしたのは親の職業まで聞かれた。話をしてくれるのは助手席のお巡りさんで運転席にいるもう一人はずっと沈黙していた。対応してくれたお巡りさんは優しくてかなり紳士的だったのが印象に残っている。終わり際、再度交通事故の啓発をしてくれていた時にふと隣の運転席のお巡りさんの名札を見た瞬間、小中学校時代の同級生の顔が思い浮かんだ。このお巡りさんは恐らく小中学校時代に仲良くしていた友達のお父さんで僕の中ではその友達はある意味特別な存在だった。その理由はその友達からよく家族の事を聞かされていて家族の喧嘩が絶えずいつもご近所さんが心配していた事、警察官である父親が凄く暴力的だった事等、僕にとってその子イコール家族の不和だった。その話を聞いてお巡りさんが家族に暴力を振るうなんて考えられず、同時にいわゆる聖職者への先入観が子供心に初めて崩れ去り現実を知った瞬間で、現実はいつもありのままなんだと知れた最初の出来事だった。 お巡りさんの名札に書かれた名字、何より息子と顔が瓜二つなことが友達の父親である事を確信させた。友達のお父さんは終始一度も話さず運転席でずっと前を見ていた。僕は友達が話していた家族の話を運転席に座るこの人に重ね合わせ、街灯で橙色に照らされた顔が少し厳めしく、やつれてもあったが、僕はその顔色に哀傷を視ていた。
