小旅行

20歳26話

 「イギリス留学に興味があるんですけど…」追い詰められた債権者が夜逃げの相談を闇業者にこっそりするように会話を始めた。向こうの電話口で女性の人がいきいきと「そうなんですね、弊社のホームページはご覧にいただけましたか?」と、僕の内向きな動機から来るテンションと女性の晴れやかな雰囲気の妙なテンションが早くも交わり、会話の雰囲気はどこかぎこちなく終始変なテンションで進んでいった。あたふたする僕を彼女は上手に会社で直接面談をする導線まで持っていってくれて、面談予約を取った日から1週間後、僕は徒歩で近くのバス停に行きそこからJR駅まで行き電車で留学サポートセンターの最寄り駅まで向かった。ここまでかかった時間は約2時間半、降り立った駅の周辺を歩きながら辺りのビル群を見渡した時ふと高校時代の記憶が蘇った。高校生の頃に仲が良かった友達とこの街でロックバンドのライブを観に行ったことがあった、この街に来たのはそれが初めてで大好きなバンドだったので滅茶苦茶楽しかったこと、帰りの電車賃と牛丼代を友達に借りたことを思い出していた。あの時見た駅の外観、ビル群、ライブハウスを道に迷いながら何度も歩いた歩道橋や道があの時のままになっている。そんなことを思い返しながら頭の片隅に叩き込んだ留学サポートセンターの場所を脳内の地図でイメージし歩を進めた。オフィスビルが建ち並ぶエリアまで来るとちょうど目的のオフィスビルの名前が書かれたファサード看板が目の前に現れ、ビルに入る前に少し人気のないところまで戻ってタバコを吸った。何階だったかは忘れたけど、留学サポートセンターはエレベーターを出てすぐにあり扉から5メートルもない距離に受付があった。要件を伝えるとすぐオフィスの個室に通されしばし待った。コンコンという音と共に担当女性スタッフが入って来て挨拶もそこそこに、先ずはなぜ留学したいのかの動機を聞かれた。「歴史ですかねぇ~」僕の取ってつけたような回答に女性スタッフ「へーそうなんですね~珍しいそんな人~」と意表を突かれたように返してきた。面談は本当に短く20分もなかったと思う、会話内容もさっきの動機に関する事を若干掘り下げる程度で、あとはこのサービスの大雑把な流れの説明を受け、名刺を貰いあとは僕からの返事待ちという事で面談は終わった。面談が終わってみて思った事はこれだけ留学の事に興味があり、面談までに至る行動は早かったものの自分が一連の事をただこなしているだけな感覚がして、本当にお前は留学がしたいのか?本当にそれに興味があるのか?もっといえば何がしたいんだ?という自問自答を帰りの電車内でずっとしていた。     僕は何もしていないと認める事、認めたくないという葛藤が小さくせめぎ合った結果何かをしているという見栄の行動が透けて見えた。いつだってそうだ、自分が自分を騙し嘘の素振りやくだらない虚栄心で己を鼓舞している、こんな滑稽な事はない。    地元の駅に降り立ちバス停でバスを待つ間カバンの中身をまさぐると行きの駅構内で適当に買ってしまった週刊文春が出てきて僕は何故この本を選んだんだろうと自分の脳みそを訝しんだ。  

過去の話
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