鍋さんと同じ道へ?

20歳25話

 街の中心部から二駅位離れたJR線の駅を降りた僕は携帯電話のメールボックスをたびたび確認し待ち合わせ場所に来るかどうか分からない鍋さんがいる場所へ駅から南へ向かった。バイト中いつものように鍋さんと談笑していて思ったより話が盛り上がりその勢いのまま僕は鍋さんに「今度平日遊びに行きませんか?」と誘ったところ鍋さんは快諾してくれた。場所はどこにしようかと二人で考えた結果、街の中心部は騒がしいしお互い住んでいる所から離れすぎるのも避けたくお互い自宅から程よい距離の場所で待ち合わせをすることにした。遊ぶと行ってもタバコの吸える喫茶店で話しぐらいしようと事前に決めていたので喫茶店に入る前に二人で少しぶらついた後にお茶でも飲む感じなのかなと勝手に想像していた。待ち合わせ場所のヴィレッジヴァンガードが入っている商業ビル一階に到着し入って目の前にある大きめのカフェを横目で確認しながらまだ着いていない鍋さんが来るまで近くにあるお店を色々を見て回った。一階にあるお店が入った商業エリアぐるぐる2,3周したあたりでビル入り口に仏頂面で鍋さんが歩いて入って来た。鍋さんは生活感がなくプライベートは結構謎の人物だったので内心ホントに来るんだと少し安心した。「ういっす」僕は鍋さんに駆け寄り挨拶もそこそこに、いつもヴィレッジヴァンガードに一人でしか行ったことがなかった僕は鍋さんにその店に興味がないっすか?と水を向けた。鍋さんは結構乗り気でまぁもともとサブカル系の話も好きだったので誘ったのは正解っちゃ正解だった。ビルの何階かは忘れたがエスカレーターに乗り店へ向かった。店の中を二人でひと通り見ながらそのうち各々一人で、そのうち二人ははぐれ自分の好きなコーナーに浸っていると鍋さんが背後から「そろそろ行くか」と声をかけてきた。「どこでお茶します?」と鍋さんに聞くと「どこでもいいよ」というので僕は目ぼしを付けていたカフェを提案しその店に行くことにした。エレベーターに乗りながら時折り高所恐怖症から来るふらつきを感じながらカフェのある一階へ向かった。カフェで二人ともホットカフェラテのMを注文しタバコを吸いながらいつものように談笑し始めた。話す内容はバイトの時と変わらなかったが、鍋さんは海外の話(特にイギリスの話)になると俄然テンションが上がり始め立て板に水、イギリス時代の思い出話を続けざまに喋りだし僕もその話を聞きながら目の前にイギリスの風景、人や物が一気に広がっていった。何もない今の自分から来る劣等感に言い訳をするべく新たな逃げ場所を作り、次の人生を鍋さんに投影し無の状態の自分の人生にかこつけて頭の中心はイギリス留学の事でその時は一杯になっていて、日々インターネットでイギリスの情報を掘り続けた。たまに某掲示板で海外留学のスレッドを見るとそこにはおびただしい数の人種差別を受けた経験が書き込まれ今まで人種差別を受けた事もないのに滅茶苦茶嫌な気分になって留学の2文字が一瞬でフェードアウトしてしまう事もあった。

 その日の帰り道JR駅構内にあるそこそこ大きな書店で『地球の歩き方 イギリス』を買いそのままインターネットが繋がっているパソコンがある姉の家へ直行した。合鍵を使い姉が不在の家に入り込みパソコンのある部屋へ行きパソコンを立ち上げヤフー検索ボックスに(イギリス 留学)と検索した。検索すると留学をサポートする会社の一覧がずらっと出てきて、手当たり次第にリンクを踏みまくり大雑把な留学の流れを知り、次に近くでそんな会社があるのかを調べると一社あった。近くといっても家から徒歩と電車で二時間半くらいかかる隣の県にあり少し遠い気が一瞬したが欲求や願望の力はすごくてこの人生から逃げたい欲が二時間半もかかる距離を心理的にも感覚的にも近く感じさせた。僕はその会社のフリーダイヤルを携帯にメモって姉の家を出た。

過去の話
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