19歳13話

 実習が終わってから浮かない日々が続いている、はっきり言ってこの先福祉の世界で働く事が嫌でたまらない、授業中も帰り道も家でも彼女と一緒にいる時も。とにかく何をしていてもどこか手がつかない頭の中がもやもやして落ち着かない。
 将来社会福祉士の仕事といえば当時の僕のイメージでは介護施設で働く事であったが、介護施設で働けば実習で見たあの光景を見てしまうことになる…思っていたより実習での体験は強烈でそれまで気楽に生きれると思っていた自分の人生の欲求がまさにへし折られたようで何の気力もなくしてしまいそうだ。学生生活2年目にしてこれじゃあ卒業なんてとてもイメージ出来ない。毎日頭のどこかによからぬ選択肢が少し顔を出していた。学校終わりよっちゃんの家でいつものように晩飯を食っていると、てんちゃんが「実習が終わったと思ったらまた夏休みにもあるみたいだよ、また2週間!!」とまるで実習を楽しみにしているように満面の笑みでみんなに話しかけた。その瞬間目の前に黒いカーテンが一気に降りてくるように僕の視界は塞がり自分の脳みそが実習の事、学校の事、未来全ての事を拒否しだした。てんちゃんの発言で僕は心の中でマジかァァァァァ…と絶望の唸り声をあげた…学生って気楽にダラダラ3年間を過ごすもんじゃないの?苦痛なんてないんじゃないの?なんで実習があるの?誰が決めたの?バイトもしなきゃいけないのに、モラトリアムはどこに行ったの?僕は頭の中で繰り返し子供のような駄々をこねている、しかしカリキュラムにどうやらそれは入っているみたいだ。今と違って若いときは嫌なことしたくない事があると頭の中で強制的に考えを遮断出来る能力があったようで、それを見て見ぬふりをしてひとまず先の事だし何も考えず日々を過ごしていたと思う。今思い返せば夏に実習がある事をわかっていても毎日それなりに楽しく過ごせていた記憶がある(もちろん頭の片隅にはどんよりとした気持ちの塊があったのだが)
新学期が始まり学校、バイト、彼女、と勉強以外は充実した日々を過ごせていた。実習にはその時が来るまでほんとになかったフリをしながらなんとか日々をやり過ごし、いよいよ2年生夏休み前の学期末テストである。1年生の時は年間通して再試験だった科目が1つだけで、2年生もだいたいその位だろうなと踏んでいたのだが、なんと今回のテストではいきなり2科目も再試験になってしまった。貼り出されたテストの結果発表を眺めているとき、自分の生活が明らかに変わり目を迎えているような感じがした、そこにはどこか現実感がなく、社会やクラスメイトや自分の人生からもなんだか切離されているような感覚で凄く不安な気持ちになった事を今でも覚えている、ずっと前から僕は心の中で実習から逃げ出したかったんじゃないかと思ってたに違いない。そこに再試験というトリガーが弾かれ学校というものに対する執着が緩んだ紐のようにスルスルとほどけていった。その日から何日か経ったのだろうか、テストの再試験程度が自分にとって悲劇的で修正不可能でどこか深い底に転がり落ちるようで、この情けない自分がひどく悲しい特別な人間だと思い始めた、こんな自分が自分でいられるために悲しい人にならないとなんだか自分の均衡を保てなくなるんじゃないか?そうだ僕は特別で悲しい人間なんだ。当時は今考えるとマジで何それ?と自分でもホントにそう思っている。だけど当時はホントにそんな感情だった。
 当時そんな事を考えていたある夜僕は悲しい人になるためにカミソリを用意し胸をズタズタに切った、ついでに左の二の腕に好きなバンド名をカミソリで切り、鏡で切り刻んだ自分の胸と腕を見ながら悲しい人間になれたとホッとし満足感でいっぱいになった。
 再試験を親にも言わず無視し、夏休み前にTシャツから少し見える腕の傷を包帯で隠しバイトに向かった。

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