19歳12話

 

心がどーんと

 実習が始まり最初にした事は僕を指導してくれる介護士さんと一緒に入居者の部屋に自己紹介をしにいく事で、1部屋づつ周り「〇〇専門学校の〇〇(僕の名前)ですよろしくお願いします!!」と元気よく挨拶をしていった。その後介護士さんから入居者が朝食を取っている間にリネンの取替を教えていただきこれは初日からさせて頂く事になった(入居者が使っているベットのシーツ交換)その後、介護士さんがする食事介助、排泄介助、更衣介助、移乗介助、入浴介助、歩行介助をそばで見させて頂く事になった。最初の3〜4日はそんな感じだったと思う。5日目あたりから僕も介護士の指導の下介助をさせて頂くようになる、人生で初めての介助は陰部洗浄だった。入居者のプライバシーのど真ん中といった感じで申し訳なくどうも気が引ける、そんな僕を介護士の方は優しく丁寧にサポートしてくれなんとか介助が終わった。その日陰部洗浄をさせていただいたのは5名位の入居者だった。1日は慌ただしく施設の職員さん達は入居者の朝の更衣介助から車椅子への移乗、又は歩行介助、そこから朝食介助、入浴介助、排泄介助、僕は介護士さんの介助を端で見たり介護士さんのサポートでの介助、合間を縫ってリネン交換をしているうちに昼食、そこで食事介助の勉強。

 ここまで介護士さんに頼りっきりの業務が終わり僕自身が昼食へ、昼食は更衣室ではなちゃんと取った。同じ施設で実習をしているはなちゃんだが彼とは実習期間が1週間ずれており、はなちゃんが先発で実習をしている。話を省いてしまったが初日の実習挨拶のあとすぐにはなちゃんが実習を開始しており僕は1週間家で待機するはめに…僕が実習を開始する頃にははなちゃんは1週間の実習をすでに終えており2週間の実習をすでに折り返したはなちゃんを心から羨ましがった、はなちゃんと実習がかぶる期間昼食の時色々話したが話す内容は二人共一緒、「実習早く終わんねぇかな〜〜〜〜〜〜〜!!!!」(笑)そんな調子で昼食の時間なんてあっという間に終わる。
 昼食後の入居者への見回り。ある部屋に入るとそこから「ポコポコポコ」と水が鈍く弾いた音がする、部屋に入ってすぐに左横に目をやると高齢の男性入居者が鼻からチューブのようなものを通され、胸のあたりにもチューブが入っている、目が半開き状態のまま乾いた唇をほんの少し開き浅い呼吸をしながら静かにベッドに寝ていた。ベッドの横にあるのは熱湯を沸かし続けている開いた給湯器。給湯器の曇った水面からは次から次へと水玉が浮き上がっては弾けて消えていく。今でも覚えている。それを見た瞬間、失礼な言い方だけど人生の終焉を見せられたような、悲しいような虚しいような、僕は一気に哀れみと一緒に無気力になってそこから全身に憂鬱さが押し寄せ力が抜けるような感覚に落ちた、入居者はここからは元気になることもないだろうそれは誰にもどうすることも出来ないことはみんな知っている、その当たり前の現実を突きつけられ何ていうか自分自身の生の衝動みたいなものがへし折られたような気がしたと思う。
 帰り道、湿度でモヤッとした部屋で見た胃ろうをされた入居者。その光景を見てから身体中が悲しみに包まれている。駅に向かってバイパス沿いを歩いてる最中、目から涙がじわっと溢れてきてしばらく止まらなかった。 その日一人でいることは出来ずなんぞうの家に行きニルヴァーナのイン・ユーテロを爆音で聴きこの最高に鬱なアルバムにとうとうみぞおちあたりに穴が空いてしまった。


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