喫茶店の前で

21歳48話

 去年町の自転車屋さんからお洒落なカフェに改装された店の前で二人は最後の会話をしていた。彼女の家を出てカフェの前までたわいのない会話をしながら僕はゆっくりリトルカブを押して、彼女は肩に下げたトートバッグの持ち手を両手で握りしめながら歩いてきた。「元気でね」「次に住む家はもう決まったの?」「うん」「なら良かった」「じゃあね」「うんじゃあね、また」最後の言葉に若干の期待と未練を残し僕はリトルカブのエンジンを足で蹴ってかけた。人通りの少ない町の一角に乾いたマフラーの音がなり、シートに座ると時間をかけてタバコを取り出し火を着けた。振り返ると彼女は笑顔で僕を見ていた。僕はアクセルをめいいっぱい回し勢いよくその場から立ち去った。何事からも逃げに逃げてきた自分の集大成が詰まったような最後だった。そこには何の痛痒もない感情があり、矛盾しているようだがむしろ晴れて何の責任も負わない人生が始まったと錯覚さえした。

 高校生の時に古着屋のお兄ちゃんから言われた一言が頭をかすめた。「人生どうとでもなるよ」お兄ちゃんの表情は半ば諦めたような様子で語っていたが、僕は古着屋で働くことが悪いんじゃない、成り行きに任せてきたような言い方が当時はすごく無責任だなと感じた。こんな大人にならないようにと危機感と不安感を覚えたが、今の僕を見てみろ…無責任どころか率先して怠け者になろうとしているのではないか。親の決められたレールに乗ったつもりでいたが、それはただ乗っているふりをしていただけなのが自分でバレただけだ。なるようになるっていってもその現実を受け止めて耐えている人間と僕では雲泥の差がある。現実なんて受け止められないし耐えられない、そんな強い精神は僕にはない。

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過去の話
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