22歳57話
『やべっちFC』は、テレビ朝日系列で放送されていたサッカー情報番組で、MCはお笑いコンビ・ナインティナインの矢部浩之が務めていて、正式名称は「やべっちF.C. 〜日本サッカー応援宣言〜」内容はJリーグの試合ダイジェストや選手インタビュー、海外サッカー情報などを中心に取り上げていた。特色あるコーナーでは矢部浩之が選手と対決する企画で、特にプロラグビー選手を壁にしたFK対決は人気だった。あとやべっちのリフティングチャレンジ。僕はこの番組が好きで特にスコティッシュプレミアリーグで活躍していた中村俊輔選手の情報を見るのが好きだった。中村俊輔選手が出場した試合が映し出されると毎回フリーキックで得点を挙げていたといってもいいくらいゴールを量産していた。この選手のプレイを見るのは勿論好きだったがそれにもう一つ好きだったのは彼が暮らしているイギリス、特にスコットランドにとても興味があったからだ。そう僕はスコットランドに留学したいと考えていた。当時スコットランドで活躍している中村俊輔選手に自分を投影してその地での暮らしをあれこれ妄想していたものだった。いつかあの地に自分が降り立つ日が来るんだな、そこでの生活が現実になるんだなと本気で考えていた。その決意とは裏腹に僕の身体はその行動をせず頭ではそれと同時にいつまでモラトリアムを伸ばせるのだろうかと考えていた。中村俊輔選手が毎週ゴールを決める度に留学するぞと意気込む反面、彼に感情移入された気持ちで心身ともに満たされ満足してしまっている自分がいる。留学サポートセンターに貰った沢山の資料はもうすでに捨ててしまっているのに…妄想留学だけは一丁前、なんなら妄想で明らかに満たされているじゃないか、そうだ心が落ち着けばいいのだから。身はない留学という肩書だけが社会に出ていくためのルーツだと勘違いしてその高いハードルを設定し自分の身動きを出来なくなるようにしているのは自分自身だ。そしてその計画も極端である。その時はバイトでもいいので社会との繋がり、小さくはない経験が何より重要だと気付いてはいなかった。
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